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私の人生に唯一意味を与えてくれる彼女との生活を支えるという目的以外には何の意味も感じられない労働を終え、家に帰ると、彼女はその角で私の心臓を貫いた。そうして私は死んでしまったのだが、なぜ彼女がそんなことをしたのかを問いただしたいとは思わない。そうしたいと思うのは、もっぱら私の側の都合であって、彼女の幸せとは何ら関係のないことだからだ。
雨
ゴンは迷っていた。キルアの誕生日が近づいていた。キルアの誕生日プレゼントを決める必要があった。ゴンの隣でレオリオも迷っていた。ゴンは拳の中にプレゼントを隠していた。レオリオも同様だった。彼らは拳を並べた。
どちらのプレゼントがより優れたプレゼントなのだろうか。ゴンは知りたかった。レオリオのプレゼントよりも劣ったプレゼントをキルアに渡す訳にはいかない。これはゴンの親友であるキルアのための誕生日プレゼントだ。ゴンはレオリオに交渉を持ちかけた。
「レオリオ、拳の中のものを見せてくれないか」
交渉は成功した。レオリオの拳は開かれた。レオリオの拳の中にあったのは花の種だった。レオリオは今日(つまりキルアの誕生日の前日)園芸店で花の種を購入していた。花の種は可能性だ。やがて芽を出し花を咲かせ種を実らせる。可能性の提示。プレゼントを送る相手はキルアだ。これ以外の正解は考えられなかった。他の正解などありえるのだろうか? ゴンは考えた。ありえないだろう。そう確信したゴンは目を閉じてもう一度自分が渡す予定のプレゼントについて考えた。レオリオが渡す予定のプレゼントについて考えている暇はない。ゴンは拳を開いた。
ゴンの拳の中には花の種が入っていた。ゴンは今日(つまりキルアの誕生日の前日)園芸店で花の種を2個購入していた。花の種は可能性だ。やがて芽を出し花を咲かせ種を実らせる。可能性の提示。プレゼントを送る相手はキルアだ。これ以外の正解は考えられなかった。他の正解などありえるのだろうか? ゴンは考えた。レオリオもゴンと同様に花の種を選んでいた。当然のことのように思えた。おそらく誰が考えてもこの結論に達するのだろう。どの道を通っても必ず最後に辿り着く場所。その場所こそがいま我々の集っている四阿であるように思えてならなかった。我々は雨を避けなければならなかった。ゴンやレオリオも例外ではなかった。明日にはキルアにプレゼントを渡さなければならかなった。
ゴンは拳を握った。種は見えなくなった。ゴンの所有する種は2個だった。レオリオの所有する種は1個だった。いまゴンが所有しているプレゼントの優位性を誇示し続けるのは彼にとってひどく慎みのない行為のように思われた。
レオリオは拳を握った。種は見えなくなった。レオリオは種を1つしか購入しなかった自らの過ちを悔いた。ゴンのプレゼントはキルアに喜ばれるだろう。レオリオのプレゼントもキルアに喜ばれるだろう。しかしその喜びには明らかな差異がある。たとえどれほどの時を経ようと絶対に埋められない差異が。
雨が降り続けていた。私は外套を被りゴンとレオリオの元を離れた。キルアの誕生日が近づいていた。どちらの種もおそらくキルアの庭で、ゾルディック家の庭でやがて美しい花を咲かせるだろう。