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子守り

akachan1

「パぁパ、パぁパ」

赤ちゃん……。
なあ、赤ちゃん。もうかれこれ二十分経つし、君が私に「パパ」と呼びかけるときに全身から発せられている警戒の念から察するに、君もうすうす勘づいてはいると思うのだが、私は君のパパではないんだ。
私は今日、何が何でもパチンコに行かねばならないという君の本当のパパからこの二時間だけ君の子守りを頼まれている、パパの友達、パパの友達なんだよ。だから君は私をパパと呼ぶべきではないし、私は自分の子どもではない君から「パパ」と呼ばれても返事をするわけにはいかない。そのことをそろそろ、わかってほしいのだが…

akachan1
「パぁパ、パぁパ」

ピッ
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To: ギャンブル する之助
パチンコ中にすまない。赤ちゃんが私を「パパ(正確には「パぁパ」)」と呼ぶのだが、いったいどう対処すべきだろうか。私は、「パパ」と呼ばれた私が彼に返事をすることによって、彼のもつ「パパ」という観念が、「昼に家にいる男性」に近いものとして定着してしまうことを強く恐れている。
指示を求む。
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よし。気は進まないが、とりあえず君のパパから指示があるまで、いったん私は「パぁパ」という愛称をもつ人間として君と接することにしようじゃないか。一歩前進だ。
ときに赤ちゃん、そうやって寝ころがってばかりいても退屈だろう。何か楽しいことをしてあげたいと思うのだが……すまない。私はあいにくこういう人間だから、べろべろべろべろ、ばー、といったようなことはできない。全部できない。死んでもやりたくない。だから、そうだ、どうだ、テレビを見ようじゃないか。だからそうだどうだ、パぁパといっしょにテレビを見ようじゃないか。

ピッ

daijoyuu1

akachan1
「ママ、ママ」

赤ちゃん……。
なあ、赤ちゃん。やはり君は認識を改めなくてはならないよ。だってこれは、どこからどう見たって「大女優」じゃないか。そうだろ? 「ママ」ではないだろ? いや確かに、この「大女優」をすごく大きく捉えれば、つまり、「大女優」を形作っているものを一回全部ばらして、そこに「ママ」を見つけようとがんばって探していけば、「ママ」はあるよ。あるけど、その前にこれは、どうしたって「大女優」じゃないか!

daijoyuu2

akachan1
「ママ、ママ」

ピッ
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To: ギャンブル する之助
ぶしつけにすまないが、君はもしかして三田佳子と寝ているのか? もしそうであるなら、ぜひ打ち明けてほしい。言いづらいのはわかる。相手側の事情もあるだろう。私としても、友人が三田佳子と寝ているというのは、なんといったらいいか、誇らしいが
あれ?
誇らしいな? 
今考えてみて思ったが、君が三田佳子と寝ているとしたら、私は誇らしいな?
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うむ。
なあ、赤ちゃん。仮に君のママがほんとうにこの人だったとしてもだ、テレビで彼女を、ママを見かけたときは、「大女優」と言わなきゃならない。「お、大女優」とか、「よっ、大女優!」とかいったふうにな。君には少し悲しいかもしれないが、君のママには、「ママ」として過ごしたのよりもよっぽど多くの「大女優」としての時間と、地位と、実績があり、たくさんの人々が、ママが大女優であることを望んでいるんだ。君はそのことを知っておかなくてはならない。だから、さ、言ってごらん、「大女優」、「大女優」

daijoyuu3

akachan1
「大女優」

そう! 「大女優」! これは「大女優」だ!
すごいな~、大女優というのはすごいだろ? なんたっていろんな髪型をするんだ。いろんな髪型をして、しかもがんばっているんだ。そうやって君が「大女優」としてのママを認めてあげられれば、ママも嬉しがると私は思うよ。
いや、ともかく、私は君を大いに見なおしたよ。いいかい、人生というのはこうやってひとつずつ、地道に地道に、


hasebe1
ワーーーーー

akachan1
「ぶぅぶ、ぶぅぶ」

「ぶぅぶ」…? 「ぶぅぶ」!?
待て待て待て待て、赤ちゃん。赤ちゃんにとっての「ぶぅぶ」というのは通常、車を意味するのだろ? これのどこが車だっていうんだ! 見てごらん、ほら、タイヤが一つもついてないし、部品も全然少ないし、何より、大学のサークルで一番ちゃんとしてる先輩みたいな感じがするだろ? だろ? これは「日本代表の長谷部」だ。
さきほどの「大女優」のケースでは、彼女はたしかに「ママ」でもあったから君にもいくらかの理があったが、「日本代表の長谷部」を一回ばらしてどんなに探したって「ぶぅぶ」なんか出てきやしないぞ。まったく、どうしたっていうんだ! もう一度ちゃんと見てごらん、ほら、しっかり目を開いて、こうやって、こう…そう、で、見て

hasebe2

見たね? 怒ってるね? 何で怒ってると思う? 君が「ぶぅぶ」なんていうからさ! さあ、怒ってるのは誰だ? ほら、日本代表の?

akachan
「日本代表の」

そうそうそう! 日本代表の…?

akachan1
「ぶぅぶ」

日本代表のぶぅぶ!??
日本代表の、ぶぅぶ………?




toyota

トヨタ! それはトヨタだ!! いけない、赤ちゃん! 日本代表のぶぅぶはトヨタだ! こうなったらもう、日本代表の長谷部はあとまわしだ。今すぐ、その頭の中に「日本代表のぶぅぶ」という、そんなのが実際にあるかは知らないが、とにかくそういった概念、というかポリシーだな、ポリシーが残っているうちに、関連付けなくてはいけない! さ、言ってごらん、「トヨタ」。これは三文字だから簡単だろ、ほら、「トヨタ」って



ピッ

emilia1

akachan1
「トヨタ」

ちがうちがうちがうちがう!!! ごめんごめんごめんごめん!!!
「サガフロのエミリア」! これは「サガフロのエミリア」という、体術に優れた、非常に魅力的な女戦士! いや、今のは私が悪かった。誤っておしりで入力切替を押してしまった私と、サガフロをつけっぱなしにしたままパチンコをしに行った君のパパが悪かった。悪かったが、しかし、どうしよう、こんなことを説明しても赤ちゃんにはわかるはずもないし!

ピッ
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To: ギャンブル する之助
緊急事態だ。
君も知っての通り、サガフロのエミリアは体術に優れた非常に魅力的な女戦士であって、日本代表のぶぅぶではないのだが、いや、そもそもは日本代表の長谷部がぶぅぶではないというのが事の発端なわけだから、私は彼にぶぅぶと日本代表の長谷部の違いを教えてあげなくてはならなかったのだが、そこで日本代表の長谷部が日本代表のぶぅぶになってしまったものだから私も思わずトヨタを挙げたところ、今度はサガフロのエミリアが現れたというわけなんだ。すまない、今ここまで書いて読み返してみたら自分でも何をしゃべっているのか全然わからない。
とにかく、とにかくだ、紆余曲折あって、彼は最終的に「サガフロのエミリア」を「トヨタ」と呼んでいるんだが、サガフロのエミリアは絶対に自動車メーカーではないだろ? しかも、待てよ、もしかすると彼はトヨタという考え方を持っていないから、サガフロのエミリアのことを「豊田さん」だと思ってしまうかもしれない!
しかし、ああ、なんてことだ、そんな豊田さんはおそらく存在しないんだ。そうすると、このことは、つまり、サガフロのエミリアみたいな、体術に優れてるのに非常に魅力的な女戦士が、何も豊田さんに限らずとも、一部の女子プロレスラーを除いて日本に存在しないという現実は、近い将来、彼と世界との間に致命的なギャップを生んでしまうかもしれない!
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なんとかしなければ…!
いいかい、赤ちゃん。これは大事なことだからよく聞くんだ。今は理解できないかもしれないが、そのうちきっとわかる日がくる。
今見てるこれ、すなわち「サガフロのエミリア」は、繰り返しになるが、「体術に優れた非常に魅力的な女戦士」である。それはもう、みんなそういうことで意見が一致している。確かに、術に得手不得手はないという説もあるが、ともかく私はそういう結論を出している。絶対にローリングクレイドルを閃かせることにしている。
しかし、彼女はそうした女性であると同時に、というかそれ以前に、「フィクション」というんだ。残酷なようだが、「サガフロのエミリア」は実在しないんだよ。わかってくれるだろうか。いや、わからなくてもいい、君の思い描いた女性が現実には存在しないなんてことはいやでもわかる日がくる。だから今はせめて、言って、おぼえておくんだ。サガフロのエミリアはフィクションだ。「フィクション」、ささ、「フィクション」、あ、赤ちゃん? 待って待って、どこへいくんだ! 赤ちゃん!!

fight1
ローリングクレイドル… ローリングクレイドル…







sony

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久々に笑いました。
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